業務効率化に向けたマイグレーションとは。概要から種類・手法まで徹底解説マイグレーションとは、既存システムやデータを新しい環境に移行することで効率化やコスト削減を狙う取り組みです。現代におけるビジネス環境はDX推進や新技術の導入に伴い急速に変化しています。それによりレガシーシステムの弊害が表面化しており、システム刷新が企業全体の競争力やイノベーションに直結する重要な課題となっています。本記事では、マイグレーションの基本概念や目的、種類に加え、実際に移行を進める際の工程や注意点、そして事例まで詳しくSIerである当社の見解も踏まえ詳しく解説します。これからマイグレーションを検討している方はもちろん、既に実施中の方にとっても、必要なポイントを整理し、スムーズに進めるための参考になれば幸いです。マイグレーションの基礎知識まずはマイグレーションの意味や定義、類似概念との違いを理解し、その背景や意義を把握することが重要です。マイグレーションを理解するうえでは、単なる移行作業ではなく、なぜシステムを移行すべきかというビジネス的な文脈を押さえる必要があります。ここではその意味や間違いやすい用語との違い、必要性を解説します。マイグレーションの意味マイグレーションとは、英語で、「移行」や「移動」を意味するMigrationと言う単語です。そこからITおけるマイグレーションとは、システムにおけるデータ(データベース)やアプリケーションを別の環境に「移行するプロセス」を指します。単にソフトウェアのアップデートを行うだけではなく、システム全体のプラットフォームやアプリケーション層を含んだ大規模な移行計画である点が特徴です。従来のハードウェアやOSが老朽化している場合や、業務要件の大幅な変化があった場合に必要となることが多く、企業の将来戦略にも深く関わります。定義と背景マイグレーションはITの世界では古くから行われてきた手法ですが、近年になって注目度がさらに高まりました。背景にはビジネス環境の変化や開発技術の進歩に加え、2025年の崖と称されるレガシーシステム問題が挙げられます。企業がDXを推進し、市場や顧客の変化に迅速に対応できる基盤へと転換するためにも、マイグレーションが不可欠となっているのです。モダナイゼーションとの違いモダナイゼーションは、システム全体の見直しや再構築を目的とし、新技術を活用して性能や拡張性、利用者体験を大幅に引き上げるアプローチを指します。マイグレーションとの違いは、モダナイゼーションの方が新機能の追加や大幅な全体設計の刷新を重視する傾向がある点です。一方、マイグレーションは既存システムの資産をなるべく活かしながら環境を移行することが主眼であり、コストやリスクも比較的抑えやすい手法と言えます。ただし「システムやアプリケーションを別の環境に移行するプロセス」だけでなく、移行に際し業務全体を刷新し最適化を行う考えもあり、モダナイゼーションと同義で解説されることもあります。モダナイゼーションに関しては詳細をこちらで解説しております。リプレイス(リプレース)との違いリプレイスは、古いシステムやハードウェアを新しいものへ完全に置き換えることを指し、場合によってはスクラップ・アンド・ビルドと呼ばれることもあります。マイグレーションの場合は、既存資産の一部または大部分を活用しつつ移行を行うことが多い点でリプレイスとは異なります。リプレイスは大がかりになりますが、システムの枠組みを最初から作り直せるというメリットがあり、対してマイグレーションは段階的な移行と安全性の確保を優先しやすいという特長があります。エンハンスとの違いエンハンスは既存システムの機能や処理を改善または拡張するアプローチを指し、システムの根幹部分への大規模な変更を行わない場合が多いです。一方、マイグレーションは運用基盤やインフラごと新環境へ移すため、機能改修だけに留まらず、環境の変更も含まれる点でエンハンスより範囲が広くなることがあります。移行の過程で一部機能はエンハンスの形で拡張されることもありますが、主目的はあくまで新環境への移行です。マイグレーションの目的マイグレーションによってシステムの老朽化対応だけでなく、経営課題やDX推進にもポジティブな影響を与えることが狙いです。経営環境や技術環境が劇的に変化する時代において、複雑化したレガシーシステムのままでは柔軟に対応できません。老朽化が進んだシステムではメンテナンスコストが高騰し、セキュリティリスクも増大します。マイグレーションを通じて最新のプラットフォームに移行できれば、そうしたリスクやコストの問題を解消し、生産性や安定したサービス提供につなげることができます。必要性レガシー環境は保守・開発のノウハウを持つ人材が限られており、属人化や技術的負債が生まれやすいです。また、ハードウェアの寿命やソフトウェアサポートの終了によるリスクも避けられません。マイグレーションの必要性は、こうした将来的なコスト増とリスクへの備えの意味合いが強く、競争力維持や長期的なIT投資の最適化のためにも不可欠と言えます。経営環境の変化への対応ビジネスモデルの変革期においては、新規事業の立ち上げや顧客ニーズへの機敏な対応が求められます。レガシーシステムのままでは、変更に時間がかかり、競合をリードする柔軟なサービス提供が難しくなります。マイグレーションによってモダンな環境へ移行すると、開発スピードや仕様変更への対応力が向上し、経営環境の変化に素早く対応しやすくなります。業務DX推進マイグレーションは単なるシステム移行に留まらず、同時に業務プロセスの抜本的な見直しを行う大きなチャンスでもあります。電子化や自動化、AIの活用などを取り入れることで、データドリブンな意思決定や迅速な業務遂行が可能になります。これにより、生産性や顧客満足度の向上だけでなく、新規サービスの提供など、さらなるDX推進の足がかりが得られます。ブラックボックス化の防止レガシーシステムの複雑な仕様や独自開発のカスタマイズが蓄積すると、担当者以外には理解不能な部分が増え、組織としての継承リスクが高まります。マイグレーションに際しては、現行システムを改めて体系的に分析し、ドキュメントの整備や標準化を進める良い機会となります。その結果として、ブラックボックス化を防ぐだけでなく、新たな担当者への引き継ぎが容易になり、企業存続のリスクも低減されます。新技術導入・競争力強化への貢献オンプレミス環境では導入が難しかったクラウド技術やAI、機械学習などの先端技術を活用しやすくなる点も、マイグレーションの大きな魅力です。スケーラビリティや柔軟な開発手法が得られることで、市場投入スピードの向上や継続的なサービス改善を図ることが可能です。結果として、企業の競争力を高め、新たなビジネスチャンスを創出する土台となります。マイグレーションの成功事例当社で実施させていただいたマイグレーションの成功事例の概要を、いくつかご紹介いたします。就活・転職サイトのAWSへのクラウドマイグレーション業界の特性上、繁閑の差が大きく高負荷に耐え得るオンプレミスの構成でシステムを構築しており、平常時にはコスト高になっておりました。そこでクラウドマイグレーションを実施し、常に最適なスペックで構成できるフレキシビリティなシステムに移行することができ、コストの最適化や運用・保守に作業負荷の低減が実現できました。顔認証受付システムのAWSへのシステムマイグレーションお客様の来社時において、受付端末より総務担当者が呼び出される為、総務担当者は業務を中断して受付・開錠対応を行う必要があり、受付の待ち時間や対応コストが問題でした。そこで既存の受付システムからAWSの顔認証サービス「Amazon Rekognition」を活用した受付システムへリプレースしました。来訪対応から開錠までをシステム上で一括対応でき受付時間、対応工数の削減を実現いたしました。通信系ログデータ集約基盤構築AWSへのデータマイグレーション通信系のログデータが大量かつ様々な形式で散在していることから、データ利活用を行うことが難しい、という問題があり、システムの再構築を検討されておりました。そこで、AWSにデータウェアハウス、データマートを構築し、効率的にデータ利活用を行うことのできる環境を構築し課題解決を行いました。マイグレーションの種類マイグレーションは対象や規模、導入形態により様々な種類に分かれ、それぞれに応じたアプローチが存在します。実施するマイグレーションの種類によって、必要となる技術や計画、工数が大きく変わります。企業の置かれた状況や課題を正確に見極めることで、最適な移行方法を選択しやすくなるでしょう。以下では代表的なマイグレーションの種類を挙げ、それぞれの特徴について解説します。クラウドマイグレーションクラウドマイグレーションは、システムやデータを従来のオンプレミス環境からAWSやAzure等のクラウド環境に移行するマイグレーションの最も代表的な種類です。クラウド環境への移行は、オンプレミスの環境に比べて圧倒的なコスト効率、柔軟性、拡張性の向上が挙げられます。必要に応じてリソースをスケールアップ・スケールダウンできるため、無駄なインフラコストを削減でき、変化の激しいビジネス環境に向いています。またクラウドベンダーのセキュリティやサービスを活用できる点も大きな魅力です。さらに、ハードやソフトのメンテナンス作業が大幅に簡略化されるため、IT部門の負担が軽減され、戦略的な業務に集中できるようになります。レガシーマイグレーションレガシーマイグレーションは、老朽化したハードウェアやOS、言語など、時代遅れとなった技術基盤を最新環境へ移行する取り組みです。膨大なソースコードと利用者がいるケースが多いため、段階的かつ慎重に進めるのが一般的です。メリットとしては、古いシステムでは対応できなかった業務DXを推進するための最新テクノロジーやツールを活用できるようになるため、メンテンナンス性や業務効率、生産性を大幅な向上が見込め、長期的なコスト削減につながりやすいと言えます。データマイグレーションデータマイグレーションは文字通り、既存システムに蓄積されたデータを新たなデータベースやストレージに移行することを指します。場合によっては使用しているデータベース(DB)の変更を行う場合もあります。(OracleからPostgreSQLやAmazon Aurora等)単なる移行作業ではなく、データの移行作業に伴うリスクを最小限に抑えつつ、新しいシステムへのスムーズな移行を実現する事を目的としています。システムマイグレーションシステムマイグレーションでは、アプリケーションやミドルウェア、ネットワーク設定などを含めてシステム全体を新環境へ移すことに重点が置かれます。移行対象が多岐にわたるため、移行後の動作検証や依存関係の整理に時間がかかる場合があります。しかし、すべてを一貫して移行できれば、システムの整合性が高まると同時に、次世代への拡張も容易になります。ライブマイグレーション(無停止マイグレーション)ライブマイグレーションは、ユーザーから見てシステムが停止していないように見える形で移行を行う手法です。業務を止めることが難しい金融機関やECサイトなどで有効とされ、仮想マシンの機能を活用して実現するケースが多く見られます。ただし、無停止を可能にするために高い技術力と十分なリハーサルが必要であるため、コストとリスクを慎重に評価することが大切です。マイグレーション実施の際の注意点(進め方、工程)マイグレーションを成功させるためには、十分な事前調査と綿密な計画立案、工程管理が欠かせません。マイグレーションは大がかりなプロジェクトとなるため、移行対象の範囲、費用対効果、移行後の運用の見通しなどを総合的に検討することが不可欠です。具体的には、まず現行システムの構成把握や課題洗い出しから始まり、移行計画書の策定、リハーサルテスト、本番移行と進めていきます。途中の段階で問題が生じた場合も、適切なテスト環境とバックアップ体制を整えておくことで、ビジネスに大きな影響を与えず対応ができるようになります。現行システムの調査・全体設計・要件定義まずは現行システムのハードウェアやソフトウェア構成、業務フローの詳細を洗い出し、移行時に想定されるリスクや制約を把握します。続いて、将来の運用要件や機能要件を踏まえた全体像を設計し、必要なスペックや移行手順を整理します。要件定義が曖昧だと、その後の工程で大幅な手戻りが発生する可能性があるため、、外部の専門家の支援も検討すべきです。移行計画書の策定・移行方法の検討要件定義を踏まえた上で、移行手法やスケジュール、担当者の役割分担などを含む移行計画書を作成します。システム停止の有無やテスト環境の準備など、実運用に直結する要素は早い段階で見極めることが望ましいです。特に、本番移行に向けたリハーサルやテストケースの作成にも力を入れ、移行後の動作に不備がないように入念な検証を行います。外注(アウトソーシング)の検討必要に応じて外注を検討することが重要です。外部の専門業者は豊富な経験と知識を持っており、プロジェクトの成功率を高めることができます。また自社のリソースでは手が回らない部分を補完することができます。例えば、クラウドマイグレーションを行う際に、自社では持ち得ない高度な技術やノウハウが必要になる場合、クラウドサービスの提供者やSIer等、クラウド構築に長けた専門家へ依頼することが有効です。専門家を活用する事で、マイグレーション作業がスムーズに進行し、問題発生時の迅速な対応も期待できます。特に、大規模なシステム移行や基幹システムの移行を実施する場合、コスト効率を高め、リスクを低減するための強力な手段となります。。まとめ・総括マイグレーションは、レガシーシステムのリスク回避はもちろん、ビジネスの可能性を大きく広げるチャンスでもあります。時代に即したプラットフォームへ移行することで、企業は業務効率化やコスト削減だけでなく、最新技術を取り入れた新たな価値創造を試みることができます。一方で、プロジェクトは大規模になりがちであり、計画立案やリハーサル、本番移行の管理には十分なリソース配分が必要です。マイグレーションを検討する際は、社内外の専門知識を結集し、慎重かつ着実に進めていく姿勢が求められるでしょう。日本システム技術株式会社(JAST)における導入事例当社では、レガシーマイグレーションからクラウドマイグレーションまで幅広い移行支援を手掛け、効率的かつ安全なプロジェクト推進してきた実績が豊富にございます。その一例を下記で紹介しておりますので、是非ご参照ください。また個別の問い合わせも受け付けております。ユーザーとSIerの共創による価値創出顔認証受付システムのAWSへのシステムマイグレーション当社の技術領域